数学シリーズ 第1回 / 全4回
なぜ 0.999… = 1 なのか?――2行の証明から「無限」の定義まで
「0.999…と1は等しい」と聞いて、どう感じるだろうか。
0.9は1より小さい。0.99も小さい。9を100個並べても、1には少しだけ届かない。それなのに、9を無限に並べると1に等しくなるという。
本記事では、まず拍子抜けするほど短い証明を紹介し、その後で「そもそも … とは何か?」まで掘り下げてみる。
1. まずは、たった2行の証明
次の等式を思い出してほしい。
両辺を3倍すると、
以上。実にあっけない。
この証明は、通常の無限小数の計算を認めるなら正しい。ただし、どこか引っかからないだろうか。
最初の は、なぜ正しいと言えるのか?
実はここにも、無限小数の意味が隠れている。したがって、この2行は美しい証明である一方、無限小数の定義そのものを説明するものではない。
2. 「9を増やし続ける」と「無限に9が続く」は違う
まず、9を 個並べた有限小数を とする。
| 1との差 | ||
|---|---|---|
| 1 | 0.9 | 0.1 |
| 2 | 0.99 | 0.01 |
| 3 | 0.999 | 0.001 |
| 4 | 0.9999 | 0.0001 |
一般に、
と書ける。だから、すべての有限の に対して、
である。
ここまでは「どこまで9を並べても1にはならない」という直感のとおりだ。
9 を並べるほど 1 に近づく様子
an = 0.99…9(9 が n 個)= 1 − 10−n
- an0.999
- 1(桁をそろえて)1.000
- 差 1 − an0.001
9 を 3 個並べた有限小数は、1 より 0.001 だけ小さいままです。n をどれだけ増やしても「ぴったり 1」にはなりません。
ただし、差 10−n は n を増やせばいくらでも小さくできます。この「どこまでも近づく」先にある値を、 数列の極限として 1 と定義します。
A. 全体の数直線(0.9 〜 1)
これまでの項 a1〜a3 を点で示しています。n が大きくなると、点は 1 に重なって見分けがつきません。
B. 差を拡大した数直線
図の幅は 10−3 の 2 倍。n を変えても同じ絵になりますが、 目盛りが 10 倍ずつ細かくなっています。どれだけ拡大しても、an と 1 の間には隙間が残っています。 それでも隙間はいくらでも縮められる、というのが極限の考え方です。
しかし、 は「9をものすごくたくさん並べた有限小数」ではない。
通常の実数の体系で、無限小数は有限小数の列の極限として定義する。
… は、どこかに「最後の9」があることを意味しない。そもそも無限に続くものには、最後の桁が存在しない。
3. 極限を使って計算する
先ほど、
だった。ここで を限りなく大きくすると、 の極限は0になる。
したがって、
これが、無限小数の定義に立ち返った証明だ。
ここで大事なのは、次の2つを区別すること。
- 有限の項: は、どんなに大きな でも1より小さい。
- 数列の極限値: は、正確に1である。
「1に限りなく近い別の数」があるのではない。 は実数として1そのものを表している。
4. 「ほんのわずかな差」が残るのでは?
「0.999…と1の間には、無限に小さい差がある」と考えたくなるかもしれない。
だが、通常の実数では、0より大きく、あらゆる正の実数より小さい実数は存在しない。
例えば、差を と仮定してみよう。9を 個並べた数と1の差は なので、差 が残るなら、すべての について
となるはずだ。
しかし、十分大きな を選べば にできる。これは矛盾する。
つまり、そのような正の差 は存在しない。
この「どんな正の誤差を指定されても、十分先ではそれより小さくできる」という考えを、数学では厳密な言葉にしている。それがε-N(イプシロン・エヌ)論法だ。
5. 実は、1には小数表記が2つある
結論をもう一度書こう。
実数の値が同じでも、その書き方が同じとは限らない。10進表記では、ある数が「末尾に0が続く表記」と「末尾に9が続く表記」の2通りを持つことがある。
例えば、
である。
まとめ
- の各項はすべて1より小さい。
- は、それらの項を「無限に実行した結果」ではなく、数列の極限値として定義した実数である。
- その極限値は、厳密に1である。
- の2行の証明も正しいが、無限小数の定義を前提にしている。
次の記事では、今まで何気なく使ってきた「限りなく近づく」という言葉を、ε-N論法で厳密に定義してみよう。
