TAKEO

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数学シリーズ 第4回 / 全4回

ε-δ論法とは何か?――数列の極限から関数の連続性まで

前の記事で扱ったε-N論法は、数列 a1,a2,…a_1,a_2,\ldots の極限を定義する方法だった。

では、xx をある値 aa に近づけたとき、関数 f(x)f(x) が LL に近づくとは、正確にはどういう意味だろう。

この疑問に答えるのがε-δ論法である。

1. ε-N論法との違い

数列の場合、入力は自然数 nn であり、「十分先へ進む」という条件を n≥Nn\ge N で表した。

関数の場合、入力は実数 xx だ。「aa の近くにいる」という条件を、距離で表せばよい。

0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta

つまり、入力 xx が aa に δ\delta 未満の距離まで近づいたとき、出力 f(x)f(x) は LL に ε\varepsilon 未満の距離まで近づく、という考え方だ。

ε-N論法ε-δ論法
扱うもの数列 ana_n関数 f(x)f(x)
入力の条件n≥Nn\ge N0<∣x−a∣<δ0<\vert x-a\vert<\delta
出力の条件∣an−L∣<ε\vert a_n-L\vert<\varepsilon∣f(x)−L∣<ε\vert f(x)-L\vert<\varepsilon
調整するもの番号 NN距離 δ\delta

本質は同じ。「出力にどれだけ厳しい精度を要求されても、入力側に条件を設けて保証する」ことである。

2. ε-δ論法の定義

aa を関数 ff の定義域の集積点とする。xx が aa に近づくとき f(x)f(x) が LL に収束するとは、

∀ε>0, ∃δ>0, ∀x:0<∣x−a∣<δ⇒∣f(x)−L∣<ε\forall\varepsilon>0,\ \exists\delta>0,\ \forall x:\quad 0<|x-a|<\delta \Rightarrow |f(x)-L|<\varepsilon

が成り立つことをいう。ただし xx は ff の定義域内で考える。

このとき、

lim⁡x→af(x)=L\lim_{x\to a}f(x)=L

と書く。

重要な点は2つある。

  1. ε\varepsilon を先に指定し、それに応じて δ\delta を選ぶ。δ\delta は ε\varepsilon に依存してよい。
  2. LL は ε\varepsilon に依存しない。極限値の候補は固定しておく。

なお、0<∣x−a∣0<|x-a| の「0<0<」には理由がある。これは**x=ax=a そのものを除く**という意味だ。関数の極限は、点 aa での値とは別に考える。

3. 実際に証明する:x2→4x^2\to4(x→2x\to2)

次の極限を、定義に従って証明しよう。

lim⁡x→2x2=4\lim_{x\to2}x^2=4

任意の ε>0\varepsilon>0 を取る。必要なのは、

∣x2−4∣<ε|x^2-4|<\varepsilon

である。左辺を因数分解すると、

∣x2−4∣=∣x−2∣ ∣x+2∣|x^2-4|=|x-2|\,|x+2|

となる。

∣x−2∣|x-2| は δ\delta で制御できそうだが、∣x+2∣|x+2| が残っている。ここで一工夫する。

まず δ≤1\delta\le1 としておけば、∣x−2∣<δ|x-2|<\delta のとき

1<x<3⟹∣x+2∣<51<x<3 \quad\Longrightarrow\quad |x+2|<5

である。したがって、

∣x2−4∣<5∣x−2∣|x^2-4|<5|x-2|

となる。

そこで、

δ=min⁡(1,ε5)\delta=\min\left(1,\frac\varepsilon5\right)

と選ぼう。0<∣x−2∣<δ0<|x-2|<\delta なら、

∣x2−4∣=∣x−2∣ ∣x+2∣<5δ≤ε.\begin{aligned} |x^2-4| &=|x-2|\,|x+2|\\ &<5\delta\\ &\le\varepsilon. \end{aligned}

ε>0\varepsilon>0 は任意だったので、

lim⁡x→2x2=4■\lim_{x\to2}x^2=4\qquad\blacksquare

これがε-δ論法を使った証明だ。

インタラクティブ

ε と δ の関係を動かして確かめる

f(x) = x²、a = 2、L = 4(0 < |x − 2| < δ ⇒ |x² − 4| < ε)

成立 ― ε = 1、δ = 0.10 のとき

この δ なら、0 < |x − 2| < 0.10 を満たすすべての x で |x² − 4| < 1 です(ずれの上限は 4δ + δ² = 0.4100 ≤ ε)。

この ε に対して条件を満たす δ の上限は √(4+ε) − 2 ≈ 0.2361 です。 ε-δ 論法では「ある δ」を 1 つ見つければよく、最大である必要はありません。

y = x² と ε・δ の許容帯y = x² のグラフに、縦方向の帯 4−ε から 4+ε(ε = 1)と、横方向の帯 2−δ から 2+δ(δ = 0.10)を重ねています。δ の範囲の曲線はすべて ε の帯の中に入っています。4 + ε4 − ε2 − δ2 + δa = 2L = 4
  • ━ δ の範囲で ε の帯の中の曲線
  • ━ δ の範囲で ε の帯の外の曲線
  • ○ x = a(条件から除外される点)

4. なぜx=ax=aを除外するのか?

次の関数を考える。

f(x)=x2−1x−1(x≠1)f(x)=\frac{x^2-1}{x-1}\qquad(x\ne1)

x=1x=1 では分母が0なので、f(1)f(1) は定義されない。

しかし、x≠1x\ne1 なら、

f(x)=x+1f(x)=x+1

と変形できる。したがって、

lim⁡x→1f(x)=2\lim_{x\to1}f(x)=2

である。

極限を考えるときに必要なのは、点そのものの値ではなく、その周囲での振る舞いだ。

だから定義には、0<∣x−a∣<δ0<|x-a|<\delta という条件が入っている。

5. 極限と連続性はどうつながる?

関数 ff が点 aa で連続であるとは、f(a)f(a) が定義されており、

lim⁡x→af(x)=f(a)\lim_{x\to a}f(x)=f(a)

が成り立つことだ。

つまり、

  • 極限:周囲から近づいたとき、どの値に近づくか。
  • 連続:その極限値と、点そのものの関数値が一致するか。

という違いがある。

先ほどの f(x)=(x2−1)/(x−1)f(x)=(x^2-1)/(x-1) は、x=1x=1 で極限値は存在するが、f(1)f(1) 自体は定義されていないため、そのままでは1で連続とは言えない。

一方、f(1)=2f(1)=2 と補って関数を定義し直せば、1でも連続になる。

6. 関数が収束しない例

例えば、

f(x)={0(x<0),1(x≥0)f(x)= \begin{cases} 0 & (x<0),\\ 1 & (x\ge0) \end{cases}

を考えよう。

xx を0に左から近づけると f(x)=0f(x)=0、右から近づけると f(x)=1f(x)=1 である。

仮に同じ極限値 LL が存在するとすると、ε=1/3\varepsilon=1/3 に対し、十分0に近い両側の点で

∣0−L∣<13,∣1−L∣<13|0-L|<\frac13, \qquad |1-L|<\frac13

が同時に成り立つはずだ。

しかし三角不等式により、

1=∣1−0∣<13+13=231=|1-0|<\frac13+\frac13=\frac23

となって矛盾する。

したがって、この関数の x→0x\to0 における極限は存在しない。

まとめ

  • ε-N論法は数列の極限、ε-δ論法は関数の極限を定義する。
  • 両者とも、出力の許容誤差を先に指定し、入力側の条件で保証する発想は同じ。
  • 極限では f(a)f(a) の値がなくてもよい。連続性では f(a)f(a) と極限値の一致が必要。
  • ε-δ論法は、微分や連続性を厳密に考えるための基礎になる。

最初は「0.999…0.999\ldots と1は等しいのか?」という小さな疑問だった。しかし、そこを掘り下げていくと、数列・極限・連続性・微積分へと自然につながっていく。

数学では、**「当たり前に見えることを、何を前提にして言っているのか?」**と問い直すことで、理解が一段深くなるのかもしれない。